介護をお仕事にしてる方のリアルな声を不定期で発信する『介護のおしごと』。
第2回は精神保健福祉士として働くT・Sさんです。
Sさんとは、2012年度から働き始めた社会人が集まるイベントで知り合いました。
精神保健福祉士なので介護に直接携わっていらっしゃるわけではありませんが、若年層から老年層まで幅広い世代の方をケアしていらっしゃるので今回お話を伺いました。
(以下、イニシャル)
Sさんは福岡にある精神保健福祉施設で働いており、現在4年目です。
佐々木「今日はよろしくね。早速だけど今の仕事を始めたきっかけは何だったの?」
S「元々は精神保健福祉じゃなくて児童養護福祉に携わりたかったんだよね。」
Sさんは高校生の頃、児童虐待のニュースが多いなと急に思った時があったそうです。
気になり出したSさんは次第に児童養護の分野に興味を持つようになり、携わるためには社会福祉学科に行く必要があることを知ったそうです。
社会福祉を学ぶには短期大学という選択肢もあったそうですが、キャンパスライフに憧れたこともあり、ご両親と相談し大学に進学することに決めたそうです。
大学で勉強することで児童福祉への興味は益々深まり、大学3年次の実習先も母子生活支援施設を選択したと言います。
児童福祉へ携わるんだろうなと漠然と考えていた大学4年次にとある転機が訪れます。
大学のカリキュラム上、精神保健福祉士の資格も取得できることも知ったSさん。
資格を持っていることに越したことはないと履修することを決め、大学生活最後の夏休みは地域活動支援センターでの実習に取り組んだそうです。
同センターのような精神保健福祉センターでは精神障害(うつ病、統合失調症など)を持つ方の自立や社会復帰を目指した支援を行います。
S「実習前は(精神障害を持っているから)急に騒がれたらどうしようとか、何をするかわかんないっていうイメージが先行してて”怖い”っていう思いしかなかったんだよね。」
“怖い”というイメージで精神保健福祉を認知していたSさん。現場で働く職員の方や利用者さんの姿を見て、イメージで判断することはもうやめようと自分を改めたそうです。
S「”精神障害者=怖い”と勝手に思ってたけど、しっかりサポートすれば普通の人と全く変わらないって思ったの。それに、自分も精神障害を持つ可能性だって0とは言い切れないし、他人事じゃないなとも思ったんだよね。
実習を通して精神保健福祉はサポートが本当に大事だと思ったし、かっこいいとすら思った。サポートだけに終わらずに、社会復帰後も継続的に見守ることができるのも魅力的だった。怖いって言ってたのに、自分もやりたいって気持ちに変わったからびっくり!」
地域活動支援センターでの実習後、興味は児童福祉から精神保健福祉へと完全にシフトしたSさん。
元々児童福祉を目指していたので、地元にある知的障害児が通う施設に就職が決まっていたそうですが、精神保健福祉への想いが断ち切れず就職活動を再開したそうです。しかし、時期の関係と新卒は採用されにくいという状況から、思うように精神保健福祉に携わる仕事が見つからなかったそうです。
やっと見つかったのが大学の卒業式の前日。
S「両親に精神保健福祉施設で働きたいと話したら、勘当だとも言われた。そりゃそうだよね。地元に帰ってくることを楽しみにしてくれてたし、それに卒業のタイミングでだからね。5年以内で生計立てることを条件に許してくれた。」
勘当も覚悟した上で精神保健福祉への強い想いを貫いたSさん。
佐々木「今4年目だけど、ご両親との約束は守れてる?」
S「うん、大丈夫だよ(笑)」
精神保健福祉士として働き始めて4年。サポートは信頼関係の上に成り立つものだと感じると話してくれました。
S「利用者さんの自立や社会復帰をサポートするのが仕事だけど、利用者さんが何を望んでいるのかって何気ないコミュニケーションの中でポロッとこぼしてくれることが多いんだよね。」
精神保健福祉で重要なことは、あくまで利用者さんが主であるということだそうです。
職員の想いや考えを押し付けることは信頼関係を壊しかねない。話す場合も”聞くこと”に徹するそうです。また、利用者さんとの間に信頼関係が築けていないと自ら進んで想いを話してくれるまでに至らないそうです。
S「上司は利用者さんの特性をきちんと把握して利用者さん毎にサポートの仕方を変えてるんだよね。でもそれって本当に凄いことで、利用者さん1人1人との信頼関係がないと絶対できない。利用者さんの自立や社会復帰というサポートのゴールは一緒だけど、同じサポートはないってことを上司に教わったな。」
サポートはこうするべきという正解がないからこそ、上司の様に利用者さんの個性をしっかり見つけた上でサポートできる精神保健福祉士になりたいと力強く話してくれました。
S「サポートがこうあるべきってのがある意味ないからこそ、できるサポートってあると思ってるんだよね。例えば、高齢者と児童を同じ施設で預かって、介護福祉のプロと児童福祉のプロが常駐していて、お互いにできることを補い合いながら支援するとかね。」
介護のみならず、福祉全般に言えることは担い手が不足していることだとSさんは言います。また、担い手のみならずサービスを求めている人が集まる場所が圧倒的に少ないそうです。
精神保健福祉の分野で言うと、精神障害を持った人が集まるグループホームは少ないそうで、待機状態にある人が大勢いるそうです。また、精神病院に入院している人の中には退院できるにも関わらず、帰る家がなかったり、1人での生活に戻ることへの不安や恐怖から長い期間病院に居続ける選択をする人も多くいるそうです。
S「4年間働いてみて、自分1人では何もできないって本当に感じるし、もっと言えば精神保健福祉士としてできる範囲も限られてる。サポートを求めている人が大勢いるんだから、行政も地域も他業種も一緒になってお互い助け合ったり、協力し合うってことが必要だと思う。」
ここまでは行政、ここからは施設という線引きをしてると人手が足りないと本当に一杯一杯でサポートどころの話じゃなくなってきます。「地域密着」「地域包括」という言葉は関わりを持って終わりでなく、しっかり運営できているか互いに確認し合い、現場レベルで互いに協力し合うことまで含まれるべきではないかと感じることができました。
S「安心できる場所が本当に足りないよ。場所も足りないけど、人手も足りない。
例えば夜勤とか。夜勤って大体1人だけど精神的負担って本当に大きいんよね。それでやめる人も多いしね。でもさ、例えばだけど、住宅メーカーが福祉施設を建設して同時に精神保健福祉士も雇えば夜勤も2人でできる。住宅メーカーが雇った精神保健福祉士は住宅メーカーから給料が支払われれば、施設としての人件費は今まで通り1人で収まる。人件費は変わらないけど、サポートは2人でできる。とかね。」
第1回の浦郷さんもおっしゃっていましたが、介護士だけで介護をする、精神福祉士だけでサポートするというスタイルは超高齢化、生産人口の減少時代において成り立たないのかもしれません。そのためにはSさんも話していましたが、プロが集まって互いに長所・短所を補い合いながらサポートしていく体制が必要だと私も感じました。
S「プロが互いに集まって補い合いながら、高齢者も児童も障害者も一緒に同じ施設で見る。高齢者も児童と接することが刺激になるだろうし、児童も昔の遊びに触れて、高齢者と触れていろんな価値観に触れるだろうし。皆で安心を創っていける気がするんだけどな。
この案に共感して、一緒に取り組んでくれる人募集してますって書いてて!(笑)」
佐々木「了解!貴重な時間を本当にありがとう!」
Sさんは最後の案をとても笑顔で、かつ、真剣に話してくれました。
同世代で今後の福祉業界の在り方、安心の創り方を考えている人がいるという事実はとても刺激になりましたし、僕も何かしらの形で関われたらと本当に感じました。
Sさんの案ではないですが、人手不足を今のドメインで解決しようとするのでなく、他業種も巻き込んで解決していくって重要な考え方だと思います。
住宅メーカーが精神保健福祉士の採用を始めれば、精神保健福祉士の採用の場が増えますし、採用の場が増えればそれだけ間口が拡がりますから志望者も増えるかもしれません。
第1回の浦郷さんもおっしゃっていましたが、これまでのやり方だけでこれからを考えるのはナンセンスですね。
このブログでは引き続き、介護従事者の方にインタビューを実施し、介護の仕事のリアルな部分を発信できればと考えています。
介護について考えるきっかけになれるように。